サカサクラゲのプラヌロイドを観察する

サカサクラゲCassiopea ornata は、鉢クラゲ鋼根口クラゲ目のなかでもちょっと変わったクラゲ。クラゲのくせにほとんど泳がず、普段は水底にサカサにはりついて暮らしているというヘンテコなやつです。でもそのポリプ世代もこれまた変わってるんだな。


目次


プラヌロイドとはなにか

なんだかSF的な名称だけど、知ってる人はかなりのクラゲ通。〜oid、というのはラテン語で〜のような、という意味で、その名のとおりプラヌラのようなもの。プラヌラ様幼生とも訳される。受精卵から発生するプラヌラとは似て非なるもので、見た目は似てるけどその出来方と大きさがずいぶん違う。
サカサクラゲを含む根口クラゲ目では、ポリプが無性生殖によって直接プラヌラ(にそっくりなもの)を生み出すのです。
サカサクラゲのポリプ
不鮮明だけど、ポリプからのプラヌロイド出芽の様子。
プラヌロイドについては、Gen-yuさんのページの中に鮮明な写真あり。

本家プラヌラについての復習

プラヌラplanulaはギリシャ語で放浪する者の意味。クラゲの受精卵はほぼ等割で途中まではウニやヒトの発生段階とほとんど変わらないのだけれど、原口陥入後の嚢胚期に繊毛が出来て、水中を活発に泳ぎまわるようになり、これすなわちプラヌラというわけです。普通はこの状態が数日続き、その間にポリプとなるべき場所を見つけて固着生活期に入るのです。クラゲの一生の中でもいちばん短い期間で、クラゲ飼ってるひとでもなかなか観察できないというのが普通。私はまったくの幸運でミズクラゲとマミズクラゲだけでは見たことあって、これはちょっと自慢。

サカサクラゲの生活史

一般的なクラゲの生活史と比べて見て頂きたい。
左上が有性生殖世代、右下が無性生殖世代。

赤い矢印の部分が問題のプラヌロイド。
ポリプは分裂せず、プラヌロイドの出芽のみで無性的増殖を行う。

ストロビレーションのとき、一個のポリプから一個体のみのエフィラが発生するのもサカサクラゲの特徴。

プラヌロイドはどうやったら見られる?

普通にポリプを飼ってると、毎日のように普通に見られます。
ストロビレーションしてないときのポリプはまさにプラヌロイド生産マシーン。餌を食べている限りプラヌロイドを出芽し続けます。場合によっては一度に二ヶ所から同時に出芽したり、離れる前にその根元がプラヌロイド化して2つ以上のプラヌロイドが数珠つなぎになったりすることも。最初はちょっとした膨らみですが、だいたいその日のうちにラグビーボール状となり、ポリプを離れます。
サイズは1ミリくらいですが、肉眼でも鑑賞可能。繊毛でゆっくり回転しながら漂うように泳ぐさまはかわいらしく、見てると時間のたつのも忘れてしまいます。数日のうちに変形が始まり、短い触手のような構造が出来始めたかと思うとどこかに定着し、可愛い小さなポリプとなります。

飼育はむずかしい?

プラヌロイドは餌を食べないので海水に入れて放置するだけですし、ポリプの飼育もいたって簡単。増殖用にはポリプ育成水槽の利用をオススメします。止水で飼育するとプラヌロイドを流さないように水換えするのが難しいこと、プラヌロイドが水面でポリプになってしまうことの2点が頭の痛い問題になってしまうのです。
サカサクラゲは成体のメデューサの飼育も比較的簡単です。ミズクラゲのように気泡が傘に入る事故もあまりないし、餌はアルテミアだけで充分。褐虫藻を共生させているので充分な光を与えることがポイント。最初のうちはコップなどで飼い、大きくなったら底面フィルターを使用した水槽にうつしてあげましょう。

プラヌロイドの起源と繁殖戦略

さて、このプラヌロイド、どういう進化の道筋をたどってきたのだろうか。
実は、刺胞動物一般ではポリプの一部がちぎれて新しいポリプになる、というのは「砕片分離」といってさほど珍しいことではない。でも不思議なのは、そこでどうしていったんプラヌラ化しなきゃいけないのか(プラヌロイドを出さないミズクラゲでも人工的にポリプをすりつぶすと断片がプラヌラ化する)、根口クラゲの仲間が増殖方法にプラヌロイド方式を選んだのか。ポリプのこの戦略はフに落ちない。普通は環境を選択できない定座生活者が無性生殖するときはあまり遠くへいかないものだ。生存に都合の良い場所にたどり着くのは宝くじ的な幸運なのだから。食うや食わず、生きるか死ぬかの状態に陥らない限り、近所をクローンで固めるのが得策なはずだ。まさに植物はそのとおりで、地下茎やムカゴ(無性生殖)と種(有性生殖)を理想的に使い分けている。

ここからは憶測だが、本来浮遊生活をして種の拡散を受け持つメデューサ(クラゲ相)が定座生活を始めちゃったものだから、やむなくポリプがその役目をすることになったんじゃないだろか。そう考えると、状況証拠はいろいろあるんですよ。

・遊泳するタコクラゲのプラヌロイドを比べると、サカサクラゲのものほど活発に泳がないし、ポリプへの変態も早いような気がする。
・サカサクラゲのメデューサの寿命はクラゲとしては桁違いに長く、最長4年くらいだって。これは納得、陽当たりが言い場所の競争は激しいから、いったんいついたらそこに居座る方が有利だからね。熱帯で年間を通して気候が安定してるのも影響があるかも。
・プラヌロイドが変態して固着するまではだいたい数日。たしかにそれだけじゃたいして遠くまでは行けないだろうが、ポリプの増殖サイクルはメデューサに比べて短いから累積すればかなりの距離を移動できることになる。
・もしサカサクラゲのポリプがミズクラゲ型の増殖、つまり隣へ隣へとクローンを増やす方式だったと仮定すると、メデューサになったときにきっと困ると思うよ。なにせ、周りをみわたすとみんな自分のクローン。子孫を増やそうにも近親交配どころじゃない、みんな同性なんだから。たまたま異性がとおりかかっても、自分の遺伝子とムダな競争することになっちゃう。メデューサなんだから泳げばいいじゃん、と思ってもこれがまた不器用な泳ぎしかできない。そう考えると、うまく出来てるもんだ。
・でも他の根口クラゲ目のポリプがプラヌロイドを持つのはなぜだろう?もしかすると、根口クラゲ目の共通祖先は実はサカサクラゲ型だったかも。そういえば遊泳型のエビクラゲ、イボクラゲのカタチはサカサクラゲに似てるじゃないか、サカサクラゲの吸盤状の傘の上に余分なデコボコがついたみたいだ。むむむ、真相を知りたいなあ。
こんな進化があったのではないか、という憶測。
でもちゃんと調べたわけじゃないから、ホントのところをご存知のかた、ご一報を。

サカサクラゲのこと、いろいろ


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