0.2mmのミズクラゲAurelia aurita(プラヌラ)

クラゲといえばまずこれ、というくらいにペットとしては定着したミズクラゲ。専用の水槽が発売されたり、ペット売り場で売られるようになったり。海水浴場 の砂浜に打ち上げられたりしてたあのお馴染みのやつが商品としての価値を持つってのはなんだか不思議なもんです。ポリプも教科書に載ってるせいか教材とし ても売られてるようですね。エフィラやストロビラも水族館では定番です。
でもこれは見たことないでしょう。プラヌラ無しにはクラゲの生活環は語れませんぞ。


プラヌラ 倍率50倍の顕微鏡で見たプラヌラ。

プラヌラの魅力

サカサクラゲのところでもちらっと書いたけど、こちらが本家プラヌラ。構造は至極簡単だ けど、すでにちゃんと内胚葉と外胚葉の区別ができて表面には多数の繊毛(せんもう)を持ち、自力でかなり活発に泳ぎます。肉眼で見る限りはちょっと太めの ゾウリムシみたいな感じ。
個人的には、だけど、ポリプ、ストロビラ、エフィラなどと変態を繰り返すミズクラゲの数あるステージの中でも、このプラヌラが一番好きなのよね。魅力はと いうと単純だけど美しいフォルム、動きの面白さ、観察できる期間の短いこと、なんてのもそうだけど、なんたって、このやたら小さいのの中に、その一 生分の設計図や、プログラムが組み込まれてるというところかな。

ミズクラゲのプログラム

プログラムっていったって、遺伝子の言葉で書かれているわけで、我々が読むことはできないのだけど。
まあ内容については、受精卵から始まって、一定のルールでの初期の卵割のしかた、一定数まで細胞数が増えたらどんなカタチになって・・・なんていう初期発 生のことから、どのタイミングでポリプになるかとか、触手の長さはこれくらいとか、ストロビラになる温度条件とか、餌が触手に触ったらどんな行動をとるべ きか、とか・・・とにかく成体のクラゲになるまでのこと、全部書いてあるはず。我々みたいな学習能力はあんまりないから、すべて焼き込みのプログラムに よって一生が決まってて、もちろん環境によってはこうした方がいい、なんてのも全部準備してあって。
さらにいうと、プラヌラの段階ではポリプやクラゲに見られる有性生殖クローンではないから、すべてのプラヌラ一個体ずつがちょっとずつ違うプログラムを両 親から受け継いでいることになります。つまり個体差ということですね。100匹プラヌラがいたら100通りの生き方があって、しかもその1匹をとっても、 有性生殖世代の増殖を繰り返すことによって、理論上は無限数のクラゲを生み出す可能性を持っている。これはちょっとゾクゾクしませんか?

プラヌラに会うには?

まあ普通の水生生物だったら、まず水槽を用意して、オスメスが揃うくらいの個体数を飼い始めて産卵を待つ、というところから始まるわけですが、ミズクラゲ の場合は幸いにしてもっと手軽に出会えちゃう。
ミズクラゲなんてたいていどこの海にもいるし、だいたい半分はメスだし、成熟した雌ならもうすでに受精済みの卵、すなわちプラヌラを抱えてるのです。
とりあえず飼育用の準備は要らないから、海へ行って見よう。季節は春先がねらい目。

ぶらっと海へいってみよう

でもまるっきり手ぶらで海へ、というのもクラゲに失礼なので、まあ採集用具などちょっとは用意しましょう。最低必要なのはこんなところ。工夫次第で身近な もので代用してもOK。
クラゲ採集には肥ビシャクがよいとされてるけど、これが便利なのは水面が比較的近いときだけで、腕力に自信がないとなかなか使いこなせません。
手網は使用禁止。目の粗いものだとクラゲがトコロテンになっちゃうし、細かいものでも触手がちぎれてダメージを与えてしまいます。たしかにプラヌラ採るだ けで親クラゲはリリースするからどうなってもいいわけだけど、マナーとして守りましょうね。

いよいよクラゲと御対面

でもって、首尾よくクラゲを見つけてバケツにすくったら、しばし鑑賞。その後おもむろにひっくり返して、雌雄を確認しましょう。比べてみないとわかりにく いけど、メスは口腕(4本ある「足」のこと)がフリル状になっています。20センチ以上の個体ならばわかりやすいはず。このフリルの部分に受精済みの卵、 つまりプラヌラを大量にくっつけているのです。ここからピペットでプラヌラを吸い取ります。
ここで欲張ってもしかたないから、とにかく数回とればうまくいくはず。
可能ならば2個体以上のメスからそれぞれプラヌラをとっておきましょう。理由は後述。

ついでにこんなこともやってみよう

無事プラヌラをゲットできたら、クラゲをリリースするまえにもう一度よく観察してましょう。ミズクラゲのクローバー型の四つ目の部分、これが胃腔なんだけ ど、このまわりの乳白色の部分が卵巣。つまり胃袋の中に卵があるというわけで、これは未受精卵。これもちょっとだけピペットで、洗い出すようにして吸い 取ってみます。肉眼ではプラヌラとほとんど区別がつかないけど、透明度が高くてほとんど真ん丸のはず。こういうのを見る時は安いのでいいから顕微鏡がある と楽しいのですが。雄をすくったときのバケツの水に入れて持ち帰れば、運がよければこんなシーンが見られるかも。数時間後に卵割が開始します。
卵割
2細胞期と4細胞期の卵があるのがわかりますか?これが本当のクラゲの一生の始まり。ウニの発生のような受精膜が見られないのが腔腸動物の特徴なんですっ て。この時期特に強光線に弱いので注意。
初期プラヌラ
発生を繰り返して、ちゃんとプラヌラに変態します。これは初期プラヌラ、まだ真ん丸い。

プラヌラの飼育と観察

プラヌラは餌を食べないので、ポリプ化までの数日の期間は海水の濃度を一定に保つ為の蒸発分の足し水と、必要ならば換水(この為に同じ場所から海水をとっ てくること!)だけで飼育できます。欲張ってたくさんとってきちゃったときは出来るだけたくさんの容器に分散させることが大事。タッパウェアのような浅い 容器に入れるか、水面付近にごく弱いエアレーション(エアポンプによるブクブクのこと)を与えてやるといいでしょう。
換水は難しいけど、ちょっと深い容器に入れて新しい海水を足し、エアレーションを止めると底の方に沈んで濃い部分ができます。これを別の容器に取り分ける ようにして換水します。もちろん残った分も水ごとどこかに置いておけばちゃんと育ちます。とにかく家じゅうの容器を総動員してやりましょう。
水底でピンク色になっちゃってたら、プラヌラが何かの原因で死んでいます。ピペットで大急ぎで取り除いてやること。
それから、混入生物にもご注意。目を皿のようにして監視して、なにか変なものが出たら取り除きます。私の経験では、油断してたらフジツボのキプリス幼生が 混じってたらしくていつのまにか小さなフジツボがプラヌラ食って育ってました。

後期プラヌラになると、なんとなくカタチがデコボコになってきて付着する場所を探し始めます。不思議と清潔な容器の面には付着しないのでサンゴ砂とか貝殻 とか入れてやるといいかも。下の写真は、サンプル中に混じってた甲殻類の殻(ミジンコかなにか)にくっついたプラヌラと、変態途中のプラヌラ(矢印)。
ポリプへの変態いよいよポリプ 化。

いよいよ変態!餌を食べるぞ

付着が始まったら変態まではそう遠いことでは有りません。最初は触手が4本、やがて8本、16本となりお馴染みのポリプになるわけです。
でもここで問題点がひとつ。最初に変態したポリプは、プラヌラとほぼ同じサイズだからとにかく小さい!ブラインシュリンプでは大きすぎるのです!
まあ海が近ければ、あらためて海水を汲んできて網で濾して、その抜けてきた方の海水を実験用のろ紙などで濾してあたえればちょうどいいサイズのものがいる かも知れない。水産用のシオミズツボワムシなんかが手にはいればこれもいいのだけど、ちょっと手軽とは言えません。
そこで、あえて餌を与えない、という作戦でいきましょう。
まだポリプになっていないプラヌラを食べて、アルテミアを捕食できるところまで育ってもらうのです。出来れば2個体の雌からプラヌラを得る、というのはこ の伏線でした。どうも血縁関係の濃いもの同士では共食いを避けるらしいのです。残酷なようですが、これも自然の掟。どっちみち全部は育てきれないしね。最 終的には一系統ないし二系統くらいに絞り込んで飼うのが、ポリプ同士の喧嘩がおこらないので得策。もちろん水槽に余裕があれば3系統ぐらいに分けてが理想 かな。ポリプ水槽はこういう飼い方にも便利。
こうしてプラヌラから得たポリプは、世界中でただ一匹、あなただけのクローンです。つま り、同じ遺伝子を持つポリプはどこを探したっていないのです。系統には名前をつけてあげて、大事に飼い続けましょう。

その後は半年計画

ブラインシュリンプを食べるようになったらもうこれで一安心。あとは水温を安定させて、餌を極端にきらさないように半年間飼育するだけ。その間にクラゲを 飼う水槽や設備などのんびり準備しましょう。
えっ、なんで半年なのかって?それは、プラヌラが得られる時期に関係が普通は早春から6月ぐらいに掛けてなので、国内の標準地ではこれから高温の夏場に突 入しますが、クラゲはこの高温が苦手なのです。だいたい28度を超えると元気がなくなっちゃう。だから、秋口の温度調整がしやすくなる時期をねらって、ポ リプがクラゲを出してくれるようにコントロールするわけです。水温を上げるのはヒーターとサーモスタットを使えば簡単だしね。水槽用クーラーという手もあ るけどお値段、電気代ともに割高。それに夏には夏のクラゲを楽しむのがMy-AQUA流かな。マミズクラゲとかね。

油断は禁物、こんなケースもあり

と、まあここまでは比較的普通のパターン。でもミズクラゲの場合は、プラヌラが直接エフィラに変態すると いうケースもあり、油断が出来ません。この場合はプラヌラがそれぞれ一個体のエフィラとなるとか。この場合のプラヌラは通常のものより大きく、このサイズ がポリプになるかエフィラになるかを決定付けているらしいのです。今は絶版となってしまった幻の名著、「ミズクラゲの研究」(安田徹、日本水産資源保護協 会 1988)によれば、福井県浦底湾で採集されたミズクラゲのプラヌラの大部分はこの直接変態タイプだったとあり、地域的なものなのかもしれません。ちなみ に私が1999年4月に愛知県知多半島で採集したプラヌラはすべてがポリプに変態し、エフィラになる気配は全くありませんでした。

ポリプ再生時のプラヌラ様幼生

ところで、サカサクラゲのプラヌロイドのところでもちょっと触れたけど、ミズクラゲにもプラ ヌラ様幼生が見られることがあります。ただし、根口クラゲ目のポリプのように普通の状態で起るのではなく、人為的にポリプを細胞レベルまですりつぶし ちゃったときに、その小さな破片がそのままポリプになるのではなくいったんプラヌラに戻るらしいのです。これはありそうなことだけど、不思議なことでもあ ります。なぜプラヌラ型になるのか。ただ単に、幼いころのプログラム、設計図を使いまわしにしてるのか、それとも適応的な意味があるのか。一定サイズより 小さくなっちゃったらまず繊毛を生やすべし、なんて命令があるのかな。

飼育のヒント

調査中のことも含めて。思い付くままに。

かくも簡単に、生命の神秘を楽しめるプラヌラなんだけど、残念ながらいつでも供給できるわけじゃありません。ほんとは一度でいいから、海で自然のプ ラヌラに出会っていただきたいのだけど、諸般の事情で自分で採集はできない、という方に。これは実験的な企画です。

D-011 ミズクラゲプラヌラ直送便+飼育セット

価格とご注文の申し込みは、こちら、ご注文のページまで。

D-011セット内容
・プラヌラ入り海水
・飼育用海水(500cc、採集地の海水)
・観察用ルーペ(市販品)
・ブラインシュリンプの卵(ポリプの餌)
・ブラインシュリンプ用スプーン
・ピペット
・人工海水の素(水換用500cc分x2)
・塩素中和剤(水道水のカルキ抜き)
・観察用シャーレ

春まで待てない、という方はこちら。ライブロックから自然発生したミズクラゲポリプです。

詳しくはこちらを。

P-012 ミズクラゲポリプ (約 5個体 )飼育セット
P-112 ミズクラゲポリプ+ポリプ用ミニ水槽キット
PK-112 ミズクラゲポリプ+ポリプ用ミニ水槽自作キット
P-002 ミズクラゲポリプ(生体のみ )

こちらは年中いつでも出荷可能。
価格とご注文の申し込みは、こちら、ご注文のページまで。